コンテンツにスキップ

トピックス(11)生物学的製剤とは?

生物学的製剤をご存じでしょうか。皮膚科領域では乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎などの治療で使用されており、治療技術の進歩に大きなインパクトを与えました。皮膚科領域以外では、関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患や、がんなど、さまざまな疾患の治療で使用されています。生物学的製剤とは、どういった薬剤なのでしょうか。


生物学的製剤とは 1)
生物学的製剤とは、バイオテクノロジーの技術を使って病気を引き起こす物質や細胞の分子だけを標的にし、それを抑え込むように設計された薬剤です。


生物学的製剤の特徴 2-4)
大きく4つの特徴が挙げられます。

①適切に使えば比較的安全である。
②ターゲットとなる物質(抗原)が明確で、高い効果が期待できる。
③多彩な作用機転(ある現象の元となる要因や経緯、またはその仕組み)を応用すれば、広い分子(たんぱく質)をターゲットにできる。
④遺伝子工学的な手法が用いられるため、構造の改良・改変ができる、などです。

また、生物学的製剤が効果を発揮するメカニズム(作用機序)は多彩です。ターゲットとなる分子(たんぱく質)や細胞により異なるため、研究開発はとても困難で、ひとつの薬剤を生み出すまでに少なくとも10年以上の期間および、約3000億円もの膨大な研究開発費を要すると言われています。


皮膚科領域での生物学的製剤
・乾癬(かんせん)5-8)
2003年に、TNFαというサイトカイン(細胞間の情報伝達を行う物質)をターゲットとした生物学的製剤が関節リウマチの治療薬として登場しました。2010年に乾癬治療に適用が拡大され、現在までおよそ10年間で多くの生物学的製剤が承認されています。従来の治療法ではコントロールが難しかった重症乾癬患者さんの皮疹コントロールや、乾癬性関節炎患者さんにおける関節破壊の抑制が可能となりました。

・アトピー性皮膚炎 9)
2018年から特定のインターロイキンというサイトカインをターゲットとした抗体製剤(疾患に関連した分子に結合する抗体を使った医薬品)が登場し、皮膚のバリア機能の改善、痒みの軽減が可能となりました。従来の治療法では効果不十分な患者さんのために、アトピー性皮膚炎に関わる分子を標的とした生物学的製剤の研究開発が現在も続けられています。

・その他の皮膚科疾患 9)
悪性黒色腫、蕁麻疹、化膿性汗腺炎、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)の治療においても、生物学的製剤の使用が承認されています。


【参考文献】
1) 竹内勤監修:改訂版 患者のための最新医学 リウマチ, 2010, p.95, 高橋書店, 東京
2) 田中良哉:医学のあゆみ 2014, 249(5), 401
3) 経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会 バイオ小委員会:報告書「バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』, 2021, p.53
4) PhRMA(米国研究製薬工業会):Biopharmaceutical Research & Development, The Process Behind New Medicines, 2015, p.1
5) 日本皮膚科学会ほか:乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス2019 日皮会誌, 2019, 129(9), 1845-1864
6) 齋藤和義:臨床リウマチ 2018, 30(3): 183-191
7) 多田弥生ほか:日本臨床免疫学会誌 2010, 33(3), 126-134
8) 藤本篤ほか:新潟医学会雑誌 2017, 131(8), 464-468
9) 佐藤伸一:目耳鼻2021, 124(11), 1472-1477

Serverside rendering